横浜地方裁判所 昭和38年(ワ)722号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一、昭和三七年一一月一三日午後二時一〇分頃、横浜市神奈川区子安通り一丁目一二〇番地先交差点において、道路を横断中の原告利男と被告岩上運転の被告車とが接触し、原告利男が負傷したことは当事者間に争いない。
二、被告岩上の過失の有無につき検討するに、前示当事者間に争いのない事実に、<証拠>を総合すると、被告岩上は被告車を運転して東京方面から横浜方面に向け、前記交差点に差掛つたところ、青信号であつたので、入江町方面に右折しようと交差点内に進行したのであるが、優先通行権をもつ横浜方面から東京方面へ向う直進車が偶々停車しかかつたので、急いで右直進車より先に右折してしまおうと考え、そのことに注意を奪われ、青信号に従つて入江町方面への道路を横断する歩行者に対する注意を怠り、折柄右道路右側から左側に向けて横断歩道を歩行中の原告利男に気付かず、そのまま時速約一五キロメートルの速力で右折進行したため、原告利男をして被告車の運転台右側ドアー附近に接触転倒させたものであることが認められる。右認定に反する<証拠>は信用せず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
およそ自動車運転者たる者は、信号機のある交差点において右折または左折しようとするとき、信号に従つて道路を横断している歩行者の通行を妨げてならないものであり、右折等するに当つては横断歩行者の有無動静に充分注意し進路の安全を確認して徐行する等して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるといわなければならないが、右認定事実よりすれば被告岩上が右注意義務を怠つたことは明らかである。
被告らは、原告利男が横断歩道ではなく、そこから入江町方面へ約四メートル寄つたところにある電柱の陰より急に被告車の進路に飛び出したもので、本件事故は不可抗力である旨主張するが右各証拠中被告岩上本人の供述、その供述記載である甲第四、五号証及びその指示に基づき作成された同第一五号証の一、二のみによつても、被告岩上が右直進車の通行に先立つて右折するのに気を奪われ、進路上の安全の確認を怠つたこと、原告利男を発見したのは原告利男が右電柱より約一・六メートル離れた車道上であり、さらにそこから原告利男が約三・一メートル歩行した地点で被告車に接触させたこと及び被告岩上が原告利男を発見してから右接触地点まで約四・七メートル、停車するまで約九・五メートルを進行していることを認めるべきこととなるのであつて、原告利男が右電柱の陰から飛び出したというのは当らないし信号には従いながらも横断歩道から多少外れて歩行者が道路を横断することはよく見掛けるところであり、これに対しても自動車運転者は注意すべき義務があること勿論であつて、たとえ原告利男が横断歩道を歩行しなかつたとしても、被告岩上において前示注意義務を尽せば本件事故の発生は防止できたと認めるに充分であり、本件事故の発生をもつて不可抗力ということはできない。
なお、本件事故発生当時、横断歩道が右甲第一五号証の二(実況見分調書添付図面)に表示されている位置にあつたと認められ、これに反する証人、前田ナカの証言部分は右図面に照らし到底信用できない。
それから、原告利男が本件事故当時横断歩道を歩行していた旨の原告利男本人の供述および供述記載(甲第三号証)は、次の諸点を総合すれば信用するのが相当である。
すなわち、前掲各証拠を総合すれば、右入江町方面へ向う道路は京浜第一国道から第二国道へ通ずる道路であつて交通頻繁な道路であるにも拘らず、原告利男は左右に全く注意を払わず漫然と横断していたことが認められるが、このようなことは横断歩道上であるからこそ原告利男において安心してなしたと考えられること、甲第一五号証の二の接触地点等は被告岩上の指示のみに基づいて作成されたものであるが、被告岩上は右折するに際し進路の状況に注意をしてなく、突蹉の間に発生した事故であり、かつ道路上には右地点等を示す痕跡等は何にも存在しなかつたこと及び本件事故発生当時入江町方面から進行して来た自動車等が横断歩道の手前で信号待ちのため停車していたことが認められ、原告利男の歩行進路が右図面のとおりとすれば、その自動車等との位置関係が問題となるが、少こしも現わされていないことから、右図面の正確性につき疑念が持たれることである。
以上、被告岩上の過失により本件事故は発生したというべきであるから、被告岩上には本件事故より生じた損害を賠償すべき義務がある。<中略>
六、被告主張の過失相殺について判断するに、原告利男は前示のごとく横断歩道を歩行するに際し、左右に全く注意を払わず漫然と通行しているが、道路交道の安全についてはひとり自動車運転者のみがこれを確保すべき義務を負うものではなく、歩行者も右義務を分担するのであつて、それは信号あるいは交通法規に従えば事足りるといつたものではなく、交差点において道路を横断するに当つては右折左折車等の自動車の運行状況には相当の注意をし、身に及ぶ危害を防止すべき義務があるのであるが、原告利男が右注意を怠つたことは明らかであり、また前示のとおり接触したのが被告車の右側ドアーであつたことよりすれば、原告利男において右注意をしておれば本件事故発生は避けられたと認められるので、軽度のものとはいえ本件事故発生につき原告利男にも過失があるといわなければならない。
前記損害<編注、積極的損害は金三五九、六五九円、得べかりし利益の喪失は金一、八九九、四八六円と認定されている>につき、これを斟酌すると被告らに責を負わすべき賠償額は積極的損害につき金三二二、七二〇円、得べかりし利益の喪失につき金一、七〇〇、〇〇〇円をもつて相当とすべきである。 (豊島利夫)